マーケティング情報

デベロッパーでの商品開発について

私は起業する前はデベロッパーにいました。

そこでいろいろな業務を経験してきましたが、その一つが新築マンションや戸建における商品コンセプトやプロモーション企画です。

先日の大和ライフネクストのセミナーではその時の経験を生かして、デベロッパーがその事業形態やビジネスモデルから陥りがちなデベの論理について話しました。

デベは土地を購入し、建物を建築するなど大きな投資をして事業をしています。

そのために数千万、数億という住宅を、ある程度の期間内に、とにかく全てを売り切らなければいけません。

そうなると購入者に対して、商品のイメージを目一杯膨らませたり、購入したあとの新生活について、夢を持ってもらうことが重要になります。

商品企画の方向やプロモーションについても、現実的な課題を投げかけるよりも夢のある暮らし提案の方が受けやすいし、販売促進に繋がりやすいと言えます。

しかし、本当の意味で、豊かな暮らしを実現するためには夢を追うだけでなく、日常の暮らし方や家族との関係性なども考える必要があります。


前置きが長くなりました。

そんな環境下の中で商品企画として提案したテーマが、なんと”引きこもりになりにくい間取り”でした。

まさにかなりベタなテーマであり、現実の社会問題をテーマにしたものです。

これには社内でも賛否両論が出ました。

営業現場からは物件のプロモーションとしては重すぎるという意見が多くありました。

しかし、そんなムードを吹き飛ばしたのはお客様からの多くの声でした。

実は私はその頃、購入検討者を会員化した友の会についても統括していました。

そごで、この会報誌にこのテーマについての紹介記事を掲載してみました。

友の会の会員は当時3万人程度いましたが、積極的な活動をしているわけではなく、毎回の会報誌につけている戻りハガキには会報誌に掲載された商品のプレゼント応募がほとんどという状況でした。

そこでこのテーマを掲載したところ、記事を読まれた方からの熱いコメントがいきなり数百件も送られてきました。

コメントはこんな感じでした。

  • 育児の真っ只中でこの内容にドキッとした。
  • 住まいだけが引きこもりの原因ではないにしろ、多少原因になりうる。
  • 住まい方だけは気をつけ、風通しのいい家族関係を作りたい。
  • 「そう、そう、そう」と読みながら、うなずいていた。
  • 雑誌などはよく読むが、初めてこのような記事を目にした。
  • マスコミが取り上げてこなかった「住まいと子育ての関係」をここまで研究してわかりやすく掲載してもらい大変参考になった
  • 子供たちの心を「家」から見つめる、というテーマはとても立派だと思う。マンション業者の各々は単に売るだけのビジネスの中で、御社のポリシーはうれしいものがある。

といったようなコメントでした。

当時の会報誌に掲載した反響例

この反響の多さにびっくりしましたが、こういったテーマに関心のある方が多いことを実感できた瞬間でした。

またこのテーマの重要性を感じるとともに、改めて家を販売する会社としての使命ややるべきことを再認識することになります。

当時、会報誌に掲載した際の書き出しはこんな感じでした。

引きこもり、不登校、キレやすい子どもたち。

子どもたちのココロが、社会問題になっています。

その原因について、家庭環境や教育、児童心理学など、さまざまな観点から論議が展開していますが、家族のココロが住まう場所である家からの視点で語られたことはほとんどありません。

本当に住まいにできることはないのだろうか。

私たちは、数年前から、この問題について静岡大学と共同研究を開始。

一級建築士であり、家族空間病理学に詳しい教育学部の外山知徳教授を中心に家族の心がかよう住まい、そして子どもが健やかに育つ住環境・住空間について検討を重ねています。

かなり真面目な書き出しですが、当時、デベロッパーが大学との共同研究をするのはかなり珍しいことでした。

モニター・アンケートを実施。

そんな中から引きこもりになりにくい住まいについての提案をしています。


それでは本題です。

登校拒否や家庭内暴力が起きるのはなぜでしょうか。

当時のメディアではその原因として子どもが個室に閉じこもり、カギを掛けていることだという説が出ていました。

しかし、外山先生はそれはおかしいと考え、研究を開始しました。

当時40件ほど調べたのですが、個室が原因だったのは0件でした。

では一体、何が原因だったのでしょうか。

それは家庭に自分の居場所がないことでした。

家庭に居場所を確保できない子どもが、家族と離れた学校や社会で居場所を確保できるはずがありません。

たとえ個室を持っていても、家族にないがしろにされていると感じたら、個室でさえ、もはや自分の確固たる居場所ではありません。

問題は、自分の居場所を確保できない子どもを作った、住まいと親にあるのです。

では、居場所とはなんでしょうか。

居場所とは、テリトリー、なわばりのこと。

このテリトリーを形成できる能力がきちんと発達しないと自分の居場所を確保できず、登校拒否等の原因になってしまうと考えられます。

かつて、社会を騒然とさせた事件がありました。

「酒鬼薔薇・神戸連続児童殺傷事件」。

この犯人である少年が「透明な存在」と書いていました。

まさにこれは、自分が居場所のない存在であることを訴えていたとも考えられます。

このテリトリー形成能力はコミュニケーション能力の発達とも深い関わりがあります。

3歳までに十分なスキンシップやコミュニケーションをしてもらった子どもは、テリトリー形成能力がきちんと発達し、親離れが早いことになります。

愛情に対して、いわゆるおなかが一杯の状態なので、満足して自立していける。

逆に、足りなかった子は、いつまでもおなかが減っている状態が続くので親離れができません。

例えばここで無理やり個室を与えてしまうと、その子どもは不安な状態となってしまい安心して暮らすことができません。

その結果として引きこもりなどの問題が発生してしまいます。

つまり、子どもの発達状態をよく観察して愛情を持って育てていけばこれらの問題は起きにくいと言えます。

最終的には家族としての関係性や、住まい方が大切だということですが、デベロッパーにも提案できる部分があります。

その一つが、テリトリーを形成しやすい間取りの提案です。

特に子どもが幼少期の時に、自然に遊びながらテリトリーを作りやすくする間取りや親との適度な関係性を育みやすい間取りを提案することです。

もう一つは家族構成の変化に応じて可変しやすい間取りの提案です。

子どもの成長や家族構成に変化があるのに固定化した使い方をしてしまっていてはスペースの有効活用になりませんし、時としていびつな関係性を作り出してしまいます。

ただ先ほどもお伝えしたようにこういった提案をデベロッパーがすることはできますが、大事なのは住まい方であり、家族との関係性、いわゆるソフトの部分になりますので、そんなことを一緒に考えてもらう、コンサル的な要素が必要なんですよね。

実はこの辺りがとても難しい課題であり、販売促進に繋がりにくかった理由といえます。

”絆プラン”して商品企画を提案していくことに。


ここまで前職のデベにおいて”引きこもりになりにくい間取り”をテーマにした商品開発についてお伝えしてきましたが、いかがだったでしょうか。

ちょっと概念的な部分が多く理解しずらかったかもしれません。

逆にご自身の実体験としていろいろと感じた方も多いかもしれません。

今回ご紹介した商品開発の際に全面的にご協力いただいた静岡大学の外山教授ですが、現在もお付き合いをさせて頂いています。

実は先日、私が登壇した大和ライフネクストのマンションみらい価値研究所のセミナーに、外山教授に登壇いただくことになりました。

今回ご紹介している不登校などの研究において実際の部屋を見られた具体的な事例などを使ってわかりやすく解説していただく予定です。

さらにそのセミナーには、なんと私も再度、登壇させていただき、デベロッパー時代の商品開発の様子や実際の販売現場に導入する際の苦労話しなどを交えてお話させていただく予定です。

ぜひご覧いただけたらと思います。

詳細はこちらから↓

https://www.daiwalifenext.co.jp/miraikachiken/seminar/230721_seminar_01