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Jリーグチェアマン村井満さんのお話が面白かったです。

先日、現在のJリーグチェアマンである、村井満さんのお話しを伺ってきました。

Jリーグチェアマン村井満さん

いや、これが滅茶苦茶、面白くて参考になりました。

実は村井さんはリクルートのOBになります。

村井さん自身はサッカーの経験が殆どありません。

そんな彼がどうやってJリーグの運営組織を大改革し、監督や選手の育成を進めることができたのか。

そんなお話しでした。

 

私もJリーグについては、以前はテレビで見ていましたし、日本代表の試合はなるべく見ていますのでそれなりに知っているつもりでした。

しかし、その運営をしている組織形態についてはほとんど知りません。

ましてやどうやったら選手が強くなるかについては、サッカー経験がないと長くサッカーをしてきた監督や選手を指導することは難しいですよね。

 

しかし、村井さんはそこにズバッと切り込みます。

その手法は、企業経営スタイルです。

現状を冷静に分析し、情報を収集し、方針を立て、具体策を検討する。

そして、PDCAを回していく。

一見、当たり前のことですが、一般の企業ですらこれをきちんとやっている会社は少ないといえます。

それを、強い信念と行動力で実行し、成功させたのが村井さんなんです。

想像すればわかると思いますが、Jリーグの運営形態は基本的にサッカーだけをしてきた方の集合体のためサッカー以外の常識や経営経験が少なく、ある意味徒弟制度のような状態です。

これは他のスポーツ運営団体でもたびたび問題となることですよね。

 

Jリーグは悪循環に

さらに、Jリーグの場合、有力選手がどんどん海外に移籍してしまい、国内の有力選手が減少し、国内のブランド力が落ちる。

そうなると入場者数も減少し、収益力が落ちる。

そうすると選手の育成にお金が回りません。

こういった悪循環になりつつありました。

 

 

こんな状況でJリーグを任されます。

あなたならどうしますか。

前置きだけでかなり長くなってしまいましたが、村井さんがJリーグの改革に着手するために

まず手がけたことは、徹底的なリサーチでした。

まずは、2005年に入ってきた選手を全員リサーチします。

その数、130人。

Jリーグの選手を徹底分析

中には岡崎選手や長友選手などの有名選手もいます。

つまり、Jリーグに入った後、海外に移籍した選手もいれば、国内組もいます。

あるいは、やむなくJリーグを去った選手もたくさんいます。

その選手、全員について、詳細にリサーチを掛けたところ、いわゆる心技体においてほとんど差異がないことがわかります。

 

 

みんな子どもの頃からサッカーをやっており、技術はもちろん、体格や精神面でも大差はなかったといいます。

全体的に少し劣っていた岡崎選手や長友選手などは、むしろ、ど三流だったとか。

一流は言わなくでもできる。

二流は言えばわかる。

しかし、三流は言ってもできない。

そんな選手でもいまや海外で活躍し、大きく羽ばたいています。

ここには何か差があるのでしょうか。

そこで村井さんが分析するために導入したのは職務適正検査でした。

この検査は、それぞれのメンバーにはどんな特性があり、どんな仕事が向くのかを分析するもので、一般的には、企業への入社時とか、転職を考えている時に受けたりしますよね。

そんな企業向けの検査をなんとJリーガーに実施したんです。

しかも、導入した検査ではコンピテンシーが50項目もあるものです。

コンピテンシーとは、単純には「能力」の意味ですが、人事用語としては、優れた業績を上げている人の「行動特性」を指します。

個人の能力や業績でなく、業績を上げるプロセスに注目し、どんな行動を取るべきかのコンピテンシー・モデルをつくって、能力開発に適用します。

そこで活躍しているJリーガーを分析してみると、ある二つの項目が突出して抜きん出ていることがわかります。

傾聴力と主張力がポイント

それは、「傾聴力」と「主張力」でした。

え?という感じですよね。

そこが違うのかって。

活躍する選手には「傾聴力」、つまり、素直に相手の話しを聞く能力と、「主張力」 、自分の意見を勇気を出して伝える能力が勝っているという顕著な結果が出たんです。

 

 

 

この結果を村井さんはこんな風に解釈します。

サッカーは理不尽なスポーツだと。

苦手な足を使わないといけないし、力のある選手も監督の戦術次第で必ずしも使われるわけではない。

広いグランドを敵味方が入り乱れて戦うスポーツなので怪我も多い。

そんな中で、活躍するためには、人間力として”リバウンドメンタリティ” 、つまりへこたれない心が重要だというわけです。

そこで、村井さんは、選手を育成するにあたり、傾聴力や主張力をはじめとする、人間力を身につけるための授業を積極的に展開します。

ちなみにサッカーの強豪国であり、次々と若い選手が出てくるドイツを研究してみるとやはり選手の育成のために様々な授業を実施していました。

例えば、地理や数学などの様々な事業が組まれています。

つまり、サッカー選手である前に、人として生きていく力を育てることが結果として選手の育成につながることが実証されているわけです。

こんな活動をすることにより、Jリーガーの選手の育成が進んでいます。

さらに各クラブ自体の分析も同じように行われています。

例えば、ドイツのブンデスリーガ36クラブを分析した指標を使ってJリーグの各クラブを分析、比較してみると、足りない所がたくさん見えてきます。

そこを徹底的に強化していくわけです。

村井さんがやっていることは極めてシンプルですし、奇をてらったものではありません。

言われてみれば当たり前のことですが、Jリーグというある意味、特殊な組織の中で、信念を曲げずに貫き通しています。

これはなかなかできることではありません。

むしろ、普通の企業こそ、こんな考え方をどんどん導入して、改革を進めるべきだと言えます。

 

村井さんの改革はこれだけでは終わりません。

選手の職務適正検査や各クラブチーム等の分析から明確になった点がもう1つあります。

それは、オーナーシップという項目です。

Jリーグはこの点がほぼゼロ点だったといいます。

オーナーシップとは、自分から発案して提案する能力のことです。

現状を客観的に分析し、課題を発見する力であり、それをどんな形で解決するか、そしてそれを自分ごととしてどう実行するか、そんな能力だと解釈しています。

これは日本全体に不足している課題とも共通していますね。

また、村井さんのお話しで面白かったのは、組織風土についてです。

村井さんはこれまで人事系の仕事を長くされていますが、その経験上、社員が会社がつまらないと言ったり退社してしまう場合、半径10mにその原因がほとんどあると言います。

つまり、会社全体の理念や戦略といった大きな要因よりも、職場のごく近い環境が大きく影響していると言います。

そこで、村井さんはチェアマンと副理事長、常任理事の部屋を一つにして、日々情報共通ができ、即断即決ができる体制にします。

 

さらに村井さんは異次元の改革を実現します。

それはJリーグの全試合をネットで見られるようにし、様々なデータを見ることができるようにすることで、ファンの裾野を広げます。

全試合の放映権を2000億円で売却

そして、その放映権を2,000億円という高額で売却することで、収益ベースを劇的に改善させることに成功します。

この放映権の売却一つを取ってもそこに辿り着くまでに面白いストーリーをたくさん伺いました。

 

まあ、いずれにしても村井さんの改革は非常にシンプルで、信念から動いていることが分かりますよね。

 

 

(文=加納幸典:不動産業界活用マガジン編集長)